私が蕎麦屋になった理由

まず、どんなことから書けばいいのか迷うところではありますが、やっぱりまずは自分が蕎麦屋になった理由から書くのがよろしいのではないかと。

私はサラリーマンの家庭に生まれて、親の転勤に伴って各地を転々としましたが、今の仕事に影響を与えた場所といえば、やはり香港でしょうか。

小学校に上がるときから中学校の一年までを家族と共に香港に暮らしましたが、毎週のように中華料理を食べていたことで、なんとはなしに舌が鍛えられていたということが考えられます。どこかで聞いた話ですが、味覚が発達するのは小学校の五年生ぐらいまでで、それから先はどんなに美味なものを食しても、味覚は鍛えられないとか。

ちょうどその時期に私は中華料理を食べまくっていたわけで、(父親の勤務する会社の駐在事務所は小所帯だったので、日本やその他の国からお客様がお見えになって接待をするのですが、中華料理だと食べきれないんですね。なんせ大皿で出てきますから。そこで私の家族が相席といいますか、ご相伴に預かって皿の中身を片付けていくと、こういう訳なんですね。)そういう意味で、親に感謝しなければいけませんね。

日本に帰国してからは、ごくごく普通の暮らしをして、大学を卒業してから一般の企業に勤めました。初めは商社、次は立ち上がったばかりの不動産会社。

商社に勤め始めてすぐ分かったことがありました。それは、自分は勤めに向いていないなということ。どうも人に命令されて動くということが出来ないんですね。この人は自分よりすごいなと思える人に命じられると、よーしって頑張っちゃうのですが、そうじゃないとなかなか頑張れないんですね。性格的に。

じゃ、いつか自分で独立して商売をしようと決めて退社。出来たばかりの不動産会社に転職をします。ここでは、トイレ掃除から、営業、集金までなんでもやらせていただきました。いろんなことを経験させて頂いたのですが、不動産会社、特に土地の開発絡みの仕事をするばあい、お金が入って来る時はどーんと入ってくるのですが、入ってこない時はずーっと入ってこない。こりゃ自分で独立した時もこんなんじゃ大変だぞと思っていたところ、上司とイザコザがあって急遽退職することに。

さあて会社を辞めたはいいのですが、同じような会社を設立するのはどうもという思いを抱えながら、あちこちバイトを掛け持ちしながら次に何をしようか考えていました。

たいした資格がある訳でなし、腕に職をつけて独立するとなれば、飲食業。単純なんですね。

サラリーマンが会社を辞めて始める飲食店は当時、ラーメン、焼き鳥、蕎麦と言われておりました。いろいろ見てみましたが、自分に一番向いていそうだなとスッと思えたのが蕎麦屋だったんですね。

これが私が蕎麦屋になった理由なんですが、よそのお蕎麦屋さんのように、蕎麦が好きで好きで病が高じて店を開いてしまったとか、蕎麦屋に生まれて跡を継いだ、というのとはちょっと違うんですね。あんまり深く考えてなったわけではないんです。

でも、蕎麦屋になってかれこれ20年。この仕事を選んで良かったな、という思いで毎日過ごしております。